公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

分かっているわよ。

彼が身を粉にして、私のために動いてくれていることは。

だからこそ、お礼を言いたい。

毎日顔を見て、感謝の意を伝えたいのに、会うことさえできない。


玄関で待っていれば会えるだろうと思い、毛布にくるまって玄関ホールに座り込んだ夜もあった。

しかし、『おやめください』と執事に叱られ、『お帰りになりましたらお知らせしますから』と部屋に戻された。

結局、教えてくれはしなかったけれど……。


本に集中しようとしても、ジェイル様の顔が浮かんで意識が逸れてしまう。

別れの日はすぐ近くにあると思えば寂しくて、恋しくて、ただ、その顔が見たかった。


「恋なんて、くだらないわ……」


この切なさから逃れたくて、かつての自分が心からそう思って言った言葉を口に出してみた。

でも、今の私には響かない。

これでは彼が『つまらん女』と評価する、他の令嬢たちと同類だ。

なんて愚かなの……。


ひとつだけ、他の令嬢たちと違うと主張できる点は、彼の妻となることは願わず、別れの決意は固いということだけ。

どんなに離れがたくても、私はそれを堪えてゴラスに帰る。

ドリスや孤児院の子供たち、あの町には私を待っている人がいるのだから。

そこだけはかろうじて、この屋敷に来たばかりのときと変わらない、私の揺るぎない決意であった。


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