公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

浮かんでくる彼の顔を、頭を横に振って消し去ろうとする。

ページを捲り、本の世界に戻ろうとしていたら、後ろにノックもなくドアが開けられる音がして、「ここにいたのか」という響きのよい声がした。


「ジェイル様!」


弾かれたように振り向いて、久しぶりの彼を視界に捉えたら、喜ぶよりも先に驚いて目を見開いた。

やつれてる……。


琥珀色の双眸の下には、浅黒いクマが浮き上がり、記憶にある顔よりも頬はややこけている。

心なしか着ている黒の上着も、ブカブカとまではいかないが、体に合わなくなったように見えていた。

彼の変貌ぶりに驚き、慌てて駆け寄って、椅子を勧めた。


「ジェイル様、座って。こんなにやつれてしまうほどに、大変な思いをしているのね。ああ、私はなんとお礼を言えばいいのかしら……」


腕を取って椅子へと誘導しようとしたが、彼はクスリと笑って私の手を解き、「大丈夫だ」と頭を撫でてくれた。


「クレア、喜べ。議会でゲルディバラ伯爵の悪政に対する、改善要求が議決されたぞ」


今にも倒れてしまいそうな顔色に見えても、ジェイル様の瞳は輝いていた。

興奮気味に力強い言葉で、決議の内容を説明してくれる。


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