公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
まっすぐに彼を見つめて、「今の私は、自分よりあなたの命が大切よ」と伝えれば、麗しきその顔が曇った。
「だから俺は、クレアを妻にすることを諦めた。貴族社会は一見平和に見えても陰謀渦巻くものだ。俺のためにと、命を懸けられては困る。それは俺の望むところではない」
「そうなの……」
「もうひとつ。想定外だったことのふたつめは、この俺だ。思わぬお前の反応を見て、俺の心にも予期せぬ感情が湧き上がった」
予期せぬ感情?
それは、まさか……。
彼が私の頬を指の背で優しく撫でた。
慈愛に満ちた瞳をして。
途端に期待に胸が弾み出し、同時に聞くのを恐れた。
それを聞いてしまえば、ゴラスに帰るのが余計に辛くなりそうで……。
動揺して顔を逸らしたら、両手で頬を包むようにして顔を正面に戻された。
至近距離にある形のよい唇から、「聞け」と容赦のない命令が下される。
「クレアを愛している。なにを犠牲にしても、お前の望みを叶えてやりたい。信じがたいことだが、今はただ、お前が幸せになる道しか考えられない」
「う、嘘よ……」
「なにが嘘だ。この俺が、お前のために、得にもならんことに力を尽くしている。これを愛と呼ばずして、なんと呼べと言うのだ」