公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
メアリーのお陰で、大きく揺さぶられた心は無事にゴラスの側に傾いて静止する。
両手で彼の胸を押して距離を空け、唇を離す。
激しいキスの余韻に肩で呼吸しながら、顔を背けて言った。
「ジェイル様、これ以上は苦しいわ……」
すると、冷静さを取り戻そうとするような溜め息が聞こえ、「そうだな」と低い声で同意される。
私の腕に触れていた手も、静かに離された。
「クレア、二週間後にここを発て。ゴラスまでは馬車を用意してやる」
「はい……」
「それまでは、なるべくお互いに顔を合わせずに暮らそう。今の俺は危険だ。触れ合えば、男の欲を抑えきれなくなりそうだ。近づかないでくれ」
私に欲情している男心を知らされて、ハッとして視線を前に戻した。
抱きたいのなら、抱いてくれて構わない。
少しでも恩返しができるならば、という心持ちでいた。
しかし彼は既に背を向けていて、私の返事を待たずに廊下に出てしまう。
目の前で扉が閉められると、私は俯いて大きく息を吐き出した。
彼の欲を満たしてあげたいけど……その後には、なにが残るだろう。
お互いに、余計に辛くなるだけかもしれない。
ジェイル様の言う通り、出発の日まで避けて暮らした方がいいと思い直す。
そして、彼への愛情を暗い小部屋の中にそっとしまいこんでいた。