公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
◇◇◇
屋敷の庭には新緑が芽生え、春の花も咲き始めている。
今日はゴラスへ発つ日。ジェイル様との別れの日だ。
「忘れ物はありませんか?」と、玄関先にて事務的な口調で聞くのは、オズワルドさん。
彼も旅支度をしているのは、私をゴラスまで送るため。
ドリスの宿屋に足を踏み入れるまでを見届けるようにと、ジェイル様に命じられたそうだ。
「忘れ物はありません。ただ、ここで買ってもらった品が多すぎて、帽子やドレスは部屋に置いたままにしてあります。ゴラスで使うことはないので、こちらで処分をお願いします」
「分かりました」
今、私が着ているのは、ジェイル様に買ってもらった服の中では一番簡素で落ち着いたオリーブグリーンのドレス。
この屋敷では普段使いをしていた服だが、ゴラスに到着する日には脱いで、オズワルドさんに持ち帰ってもらうつもりでいる。
こんな上等な服を着て帰れば、どんな贅沢暮らしをしていたのかと、町の民に白い目で見られそう。
そう思い、鞄の中にはゴラスを旅立った日に着ていた服が入れてある。
その服とは、くすんだ水色のよれたワンピースと、継ぎ接ぎだらけの擦り切れた白いエプロン。
私はただの町娘なのだから、これでいい。