公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

「では、出発しましょう」と、オズワルドさんは玄関の扉を開けた。

「ええ」と頷きつつも、足を前に進めることができず、私は後ろに振り向いた。

そこに立ち並ぶのは、およそ十カ月間お世話になった執事と使用人たち。

玄関ホールを埋めるような四十人ほどの人の中には、ジェイル様の姿はない。

彼の姿を見たのは、二週間前の書庫が最後。

お互いに避けて暮らそうという話ではあったが、まさか別れの日まで会ってくれないとは思わず、胸が痛んでいた。


振り返った私に、オズワルドさんが呆れたように言う。


「ジェイル様は屋敷にはおりませんと、教えたはずです。昨夜はお帰りにならず、王城に泊まって仕事をされているのですから」


分かってるわよ……。

最後にひと目、会いたかった。

麗しきその姿をこの目に焼き付けたかった。

そう思い、彼の残像でも見えやしないかと、振り向いてしまっただけよ……。


使用人たちに頭を下げ、「お世話になりました」とお礼を述べて、後ろ髪を引かれる思いで外に出た。

早朝の風は寒いくらいだが、日差しは暖かく、旅日和。

玄関ポーチの段差を下りると、停車していた二頭引きの馬車に乗り込む。

すぐに隣にオズワルドさんも乗り込んで、執事が扉を閉めたら、御者のムチの音が小さく聞こえて馬車はゆっくりと走り出した。


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