公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

チラリと外を見て、また目線を膝の上に戻したら、乗り込んでからひと言の会話もないオズワルドさんが、急に独り言を呟いた。


「まったく、我が主人は捻くれた性格をしていらっしゃる。素直に皆と一緒に見送ればいいものを……」

「え?」


左隣に座るオズワルドさんに振り向くと、「席を替わりましょう」と言われ、不思議に思いながらもそれに従った。

続いて左の車窓を見るように言われる。

峠の先の岩山の、突き出した崖の上に注目するように、と。

視線をそこに向けたら……声も出せないほどに驚いて、慌てて窓を開け、上半身を外に乗り出した。


崖の上には、黒馬に跨った人影が。

ダークブラウンの髪に丈長の黒い上着を着て、朝日に襟元のブローチを赤く輝かせている。

遠目でも、その人影が誰なのかすぐに分かった。


ああ、ジェイル様……。


見送りに来てくれた。

それだけで嬉しくて、胸が張り裂けそうに痛む。

片手を空に伸ばして力一杯手を振ると、遠すぎて表情までは見えないけれど、なんとなく笑ってくれたような気がした。


目を凝らして、最後の姿を心に焼き付けようとする。

涙で霞んでは悔しいので、血が滲むほどに唇を噛み締めて、切なさに耐えていた……。


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