公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
それでいて動作の一つひとつに品があり、素朴な服装でいても、ただの旅の者ではないことは明らかだ。
この男は、きっと……。
ランプが私に向けられ、男はゆっくりと私に近づいてくる。
僅か一歩の距離で足を止め、遠慮なく光を私の顔に当てるから、眩しさに顔を逸らした。
すると、男らしい指先が私の顎をつまみ、顔を正面に戻される。
観察するような視線が私の顔中を這い、その不躾な行為に、思わず睨みつけた。
「なんだ、その目は。助けてやったというのに、礼のひとつも言えんのか。それとも商売を邪魔されて、怒っているのか?」
商売とはきっと、売春のことだろう。
ひどい侮辱にますます視線を厳しくしても、男はクッと乾いた笑い声をあげるだけで、まったく堪えていない様子。
「娼婦じゃないわ」
「そうか。ならば夜道をひとりでうろつかんことだな。この退廃した町ならなおのこと危険だろう」
退廃した町……そう思うのね。
綺麗に作られた上辺だけじゃなく、この人はゴラスの内部まで、その目で確かめようとしてくれている。
そう感じた私の胸には期待が湧き、睨むのをやめて彼の名を呼んだ。
「オルドリッジ公爵」
「気づいても、その名を呼ぶな。一応、忍びで偵察中だ」
「なぜそこまでするの? あなたは、この町を救ってくれるの?」