公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
そこにドアが開いて、リッキーが駆け込んできた。
五歳になるニコラスの手を引いて。
「シスター、ニコラスが膝を擦りむいたんだ。凧揚げしてたら、石につまずいて」
「あら、大変。すぐに手当てしましょう」
乳飲み子を抱えたまま立ち上がったシスターを制して、「私がやるわ」と意気込んだ。
バスケットを長テーブルに置くと、棚の上から救急箱を取ってきて、ニコラスを椅子に座らせる。
救急箱の中も以前と違って薬が充実していた。
消毒をしてガーゼを当てていると、リッキーが隣で、今気づいたかのように言った。
「あ、ベーコンと卵だ」
「そうよ。リッキーはベーコンが好きでしょう? たくさん食べてね」
まだ悪政に苦しめられていた頃、リッキーにベーコンをねだられたことを思い出す。
育ち盛りの少年に肉やチーズや卵を食べさせてあげたくても物価は高く、メアリーの薬代を稼ぐだけで精一杯で買ってあげられなかった。
それが今ではこうして、バスケットから溢れるほどの差し入れを持ってきてあげられるのだ。