公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
そう決意を固めたけれど、最後にもう一度だけ優しい音色に包まれたいという甘えた心までは消せなかった。
それで蓋を開けようとしたら……手が滑り、オルゴールを床に落としてしまう。
ガチャンと響いた音とともにガラスの小瓶が飛び出して、一歩離れた床板の上に弾んで転がった。
その際にコルクの栓が外れ、中のトロリとした液体が漏れ出してしまう。
壊れずに音色を奏で始めたオルゴールと、たちまち広がる豊かなバラの香り。
慌てて小瓶を拾って栓をし直し、溢れたオイルはベッドの毛布を引きずり下ろして拭き取った。
そして、拭いてしまってからハッとする。
私はなにをしているのよ……。
毛布で拭けば、今夜はこの香りに包まれて眠らなければならないじゃない。
久しぶりに嗅いだ彼の香りは、私の心を甘く熱く苦しめる。
「ああ、ジェイル様……」
毛布を抱きしめ、床にうずくまり、嗚咽を漏らして泣いていた。
彼と離れて、ますます恋心が募るとは、予期せぬこと。
まさか、愛がこんなにも苦しいものなんて、知らなかったわ。