公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
失望は隠せないが、オルドリッジ公爵の利用価値を、私はまだ諦めきれずに探していた。
彼の治める領地の民は、私たちよりマシな暮らしをしているのは確かだ。
ここを退廃し町だと、彼が言ったのだから。
さっきは否定されてしまったが、もし彼がゴラスを欲しいと思うようになったら、侵略してくれるだけの力を持っているのだろうか?
それが、是非とも知りたい情報だ。
頭の中で考えを巡らせて、それをそのまま口に出して聞くと、美しい顔の眉間に皺が寄る。
私の顎から手を離し、背を向けられたので、答える気がないのかと残念に思ったが、低い声が聞こえた。
「欲しいと思ったら、こんな町、ひと晩で落としてやる。だが、魅力は微塵もない。おかしな期待をするな」
不愉快そうな声で言った後、「早く家に帰れ。二度目は助けてやらんぞ」と付け足して、彼は歩き出す。
供の男たちは、彼の後ろに付き従って、その姿は道の角を曲がり見えなくなった。
途端に辺りは、月明かりだけが頼りの深い闇に包まれる。
私は壁に背を預けたまま、ゆっくりと右拳を開く。
そこには、ずっと握りしめていた印璽が。
『クレア、よく聞いて。これはあなたの身分を証明する唯一のもの。いつか役立つときがくるかもしれないから、これだけは売ってお金にしては駄目よ』
十歳のときに聞いた、病床の母の言葉が脳裏に蘇る。
もう私には不要なものだと思っていたのに、使うべきときが来たのかもしれないわ、お母様……。
青白く見える象牙の印璽に彫り込まれているのは、絡み合う蔦と盾と馬の紋章。
それを手の平で転がしながら、私は頭の中で黒い算段を始めていた。