公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
オルドリッジ公爵邸を目指し、大通りから離れた民家の立ち並ぶ道を進む。
こっちの方が、近道のような気がしたからだ。
すると前方に、やけに賑やかな二階建ての建物が見えてきた。
雨の中でも男たちが出入りして、ドアが開くたびに中から歌が漏れ聞こえる。
近づくと窓ガラスの向こうに、酒を酌み交わして笑う男性客と、給仕の女性の姿が見える。
ここはどうやら、庶民のための酒場みたい。
それだけ分かると興味をなくし、また心には愛しい彼への想いだけが広がっていった。
しかし、酒場から少し歩いたところで、「お嬢ちゃん」と、後ろに私を呼び止める人が現れた。
肩に手をかけられて足を止め、振り向くと、酒に酔った中年の男がヘラヘラと笑いながら立っていた。
「旅の人かい?」
「ええ」
「ずぶ濡れじゃないか。宿賃がないなら、おじさんの家に泊まらせてあげよう」
親切心からの声かけでないことは、その下心のありそうな嫌らしい目を見ればすぐに分かる。