公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

断る前にまずは男の様子を観察する。

赤ら顔で千鳥足。かなり酔いが回っていて、これなら特に策を講じずとも、走って逃げられると判断した。

それで「結構よ」冷たく言い放ち、肩の上の手を払いのけるや否や、マントを翻して駆け出した。


民家の間の小道を縫うようにして走り、追ってこようとしていた男をうまく巻く。

けれども、よかったと足を止めようとした途端に、石畳の上で派手に転んでしまった。

足を滑らせたのは雨のせいだけではなく、長旅で体が限界に近づいているせいかもしない。

水溜まりの汚れた水を全身に被り、打ちつけた膝はひどく痛んだ。

よろよろと身を起こしてスカートを捲って膝を確かめると、擦り剥いて血が染み出している。


これからジェイル様に会うというのに、ひどい姿ね……。


あまりにも汚いから、追い返されたらどうしようと危ぶむ。

でもそれは私の足を止める理由にはならず、引き返すという選択肢もない。

ドリスに言われた言葉が、私に勇気と力を与えてくれていた。


『後悔しないように、思いっきりぶつかってくるんだよ』


ええ、ドリス。

彼に迷惑顔をされようとも、最早お前など不要品だと言われようとも、絶対に諦めないわ。

これからは愛のために生きると決めたのよ。

もし彼が心変わりをしているのなら、また振り向かせてみせる。

どんな汚い手を使ってでも。

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