公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
胸に手を当て深呼吸してから、獅子の彫刻の施された真鍮のドアノッカーを叩いた。
少しして扉は開かれ、ひとりの執事が顔を覗かせる。
八人いる執事の中で一番年若い、二十代後半の執事だ。
彼は私を見るなり、顔をしかめて追い返そうとする。
「ここはオルドリッジ公爵邸だ。下賤の者が簡単に門戸を叩いてよい場所ではない。立ち去りなさい」
ここで暮らしていた間、挨拶以外で彼と言葉を交わしたのはほんの数回しかなかったように思う。
それでも私だと気づかれないとは思わず、驚いていた。
しかし、彼を非難することはできない。
それほどまでに、私がひどい姿をしているということなのだから。
クレアだと名乗ろうとしたら、後ろに馬の蹄と車輪の音がする。
すると執事は慌てたように外に出てきて、私の手首を掴むと、力尽くで排除しようとしてきた。
「ジェイル様のお帰りだ。玄関前でお目汚しをするわけにいかない。裏門から出ていけ。早く、こっちだ」