公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
兵たちが数歩下がって見張る中で、公爵は一歩の距離を置き、私と向かい合う。
昨夜とは違い、彼は立派な服に身を包んでいた。
丈長の黒の上着の襟や折り返した袖口には、銀糸で細やかな刺繍が施されている。
襟元には豊かに襞を寄せるシルクのジャボットが光沢を放ち、そこにはピジョン・ブラッドと呼ばれる情熱的に赤いルビーのブローチが留められていた。
襟足だけ少し長い、ダークブラウンのすっきりとした短い髪に、琥珀色の瞳。
それも、昨夜は見なかった彼の外見だ。ランプの明かりだけでは瞳の色まで分からない。
腰には彫刻の見事な銀の剣の鞘が見えていて、彼を飾る剣やブローチよりも麗しい貴公子は、その繊麗さに似合わない、意地悪そうな笑みを口元に浮かべていた。
「昨夜の女か。馬に蹴飛ばされる覚悟で、なにを言いにきた。助けてやった礼か?」
からかうような口振りの彼に、私は「いいえ」と真顔で答える。
「お礼ではなく、お願いしにきたの。
私を連れていって。侍女として、あなたの側に置いてください」