公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「話は終わりだな」と言った彼は、片足を引いて、私に背を向けようとしていた。
その腕を掴んで引き止めた私は、エプロンのポケットからある物を取り出し、彼に差し出した。
「印璽か?」
興味を示してくれた彼は、体の向きを戻して、それを手に取る。
象牙に掘られている紋章を確かめた後には、琥珀色の瞳に微かな驚きが浮かんでいた。
「おい」と呼びかけられたのは、斜め後ろに控えている彼の従者で、印璽はその者の手に渡る。
従者の年の頃は、三十くらい。
主人に似て冷たそうな印象で、主人に似ずに堅物そうな顔付きの、黒っぽい髪色をした男。
その従者は上着の内ポケットから、よく使い込まれた分厚い手帳を取り出してページをめくり、そこに書かれているなにかと印璽の紋章を慎重に見比べていた。
その作業が終わって手帳をポケットに戻した彼は、印璽を主人の手に返すと、初めて口を開いた。
「本物です」
それを聞いた公爵は、私の頭から爪先までに視線を一往復させ、二度目の出会いでやっと私の名を尋ねてくる。
「お前の名は? 省略せずに名乗れ」
「クレア・アマーリア・フォン・エリオローネ。祖父はエイブラハム・ヘッセン・デア・エリオローネ。辺境伯と呼ばれていました。領地を失うまでは」