公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
強気な視線を真っ向からぶつけていると、公爵はクッとくぐもった笑い声をあげ、印璽を私に返しながら言った。
「こんなところで、辺境伯令嬢に出会うとはな。俺に近づこうとする目的は、家の再興か?」
「違うわ」と、それも私は否定する。
祖父には会ったことはなく、父の記憶もない。
彼らの想いを受け継ごうと思えるほどの親しみは感じられず、エリオローネの名にこだわりもなかった。
貴族的な生活を知らないのだから、それを恋しく思うこともない。
目的はただひとつ。この男を操って、ゴラスを暴君の支配から解放することだ。
その企みのすべてを今はまだ明かさないのは、精一杯の駆け引きをしているから。
私のことを知りたくなってきたでしょう?
それなら、『連れていく』と早く言って……。
お互いになにも話さずに、探り合うような視線をぶつけ合っていた。
周囲では町の民が騒ついており、視察団の護衛やゴラスの兵からは、戸惑っているような視線が私たちに向いていた。
無言の間が数秒続いた後にフッと表情を緩め、先に口を開いたのは公爵だった。
「肝の座った女だ。そういう可愛げのない女は、嫌いじゃない」