公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
それは、連れていってくれるという意味に捉えてもいいの……?
彼の言葉に期待が膨らんで、思わず気を緩みかけたそのとき、馬車の後ろの方から怒鳴り声がした。
「お前たち、なにをやっておる!
公爵に無礼を働く女を、早く捕らえぬか!」
慌てた様子で駆けつけたのはゲルディバラ伯爵で、顎髭を蓄えたその顔は、怒りに醜く歪められていた。
視察団の隊列が道の途中で止まっている様子が見えて、屋敷から飛んできたのか。
それとも、兵士が知らせにいったのかもしれない。
再び私に何本もの剣先が向けられることとなり、ヒヤリとしたが、斬りつけられることはなかった。
公爵が私の腕を掴んで引き寄せ、庇うように抱きしめたからだ。
背中に逞しい片腕が回されて、目の前にはピジョンブラッドの真紅の輝き。
頬に当たるシルクのジャボットからは、微かにバラの香りを感じた。
これにはさすがに驚いて、心臓が早鐘を打ち鳴らす。
「オルドリッジ公爵、なにをなさるのですか!?」と暴君も驚いており、ただひとり、平常心を貫く彼は、私に対するものとは違う丁寧な口調で言葉を返していた。
「血生臭いものは、見たくないのですよ。ゲルディバラ伯爵、剣を納めるように兵士に命じてもらえませんか」