公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
書架に囲まれた空間の中央には、彫刻の美しいマホガニーのテーブルと椅子が四脚。
書庫にいるのは私たち、ふたりだけ。
前に執務室で『時間があれば、俺が教師をしてやる』と言った約束を彼は守ってくれていて、朝食までの二時間ほどを、毎日隣で過ごしてくれていた。
多忙な彼の貴重な時間を無駄にしないためにも、私は貪欲に勉強に励んでいる。
丸暗記している本の該当箇所を、空で口にしてみせたら、彼は眉間の皺を解いてくれた。
「いいだろう。お前の記憶力は大したものだな。真綿が水を吸うように知識が入っていく。今まで空っぽだったから、入りやすいのかもしれんな」
今までは空っぽって……馬鹿だと言いたいの?
ジロリと睨んでしまったが、無教養だったことは否めない。
勉強などという贅沢な時間を持つことはできなかったし、本を買うお金もなかった。
存分に本を読める環境を与えられ、勉強することの面白みを初めて知った私。
自分の世界が広がりつつあるのを感じている。
新しい知識を得るたびに思うのは、ゴラスの孤児院の子供たちのこと。
あの子たちにも、勉強できる環境を作ってあげたいと夢見て、そのためにはジェイル様を恋に落とさねばならないと、心は黒い企みの中に戻されるのだった。
早く、彼にとって価値のある女にならないと……。