公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
午餐の食事後も書庫にこもってひとり、本を読みふけていると、ノックもなくドアが開いて「帰ったぞ」と声がした。
どんなに集中していても、その響きのよい声にはすぐに反応することができる。
振り向いて「ジェイル様、お帰りなさい」と答えたら、優雅な足取りで近づいてきた彼は呆れ顔を見せた。
「出かける支度をしておけと言っただろう」
本を閉じて立ち上がった私は、今朝と変わらぬ自分の身なりに視線を落としてから、「できてるわ」と首をかしげる。
夏だから外套はいらないし、着ている服だって、ゴラスだとドレスと言っていいほどに上質な緑色のワンピース。フリルやリボンまでついている。
これ以上、なにを身につけろと言うのだ。
そう思っていたのだが、ジェイル様に「帽子と化粧を忘れてるぞ」と指摘された。
「帽子は持ってないわ。化粧は道具もないし、やり方も分からない」
ゴラスからは印璽のみを握りしめて出立したのだから、ここで揃えてもらった物以外の私物はない。
化粧品に関しては、ゴラスでも持っていなかった。