公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
数秒間の停車の後に、馬車は来た道を引き返す。
人の賑わう通りの一軒の店先まで来ると、ジェイル様が御者に声をかけ、馬車を止めさせた。
「お前の帽子と化粧品を買うぞ」
それが目的みたい。
老舗の帽子屋だというこの店のドアには、王家御用達という標章が貼られていた。
中に入ると、壁が埋もれてしまいそうなほどの帽子の数に目を丸くする。
「好きなものを選べ」とジェイル様に言われても、多すぎてなにを手に取っていいのか判断できない。
今まで自分のために装飾品を選んで買うといった経験がないので、自分の好みさえも分からなかった。
それで適当に、目の前にあったレースつきの黒い帽子を被ってみようとすると、「それは葬儀用だ」と指摘された。
次に手に取ったのはリボンのついた赤い帽子で、「どう見ても子供用だろ」と、呆れたような声を聞く羽目になる。
そこに中年の女性店員が手揉みしながら近づいてきた。
「これはこれは、オルドリッジ公爵。ようこそご来店くださいました。早速、奥の部屋でご注文をーー」
店員の言葉を皆まで聞かずに片手を上げて制した彼は、私の肩に手を置いて言う。
「今日は俺の帽子を作りにきたのではない。この娘のものを見繕ってくれないか。時間がないものでな、既製品でいい」