公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
「まさか私を社交界に出すつもりでいるの?
危険だから素性をバラすなと言ったのは、あなたなのに」
彼は私をなにかに利用しようとしている……。
それは前々から気づいていたことであっても、彼の思惑の中身までは探ることができずにいた。
それを少しだけ、垣間見たような気持ちでいる。
歩き出した彼の腕を掴んで振り向かせ、「どうして答えないの?」と問いかければ、「さあ、どうしてだろうな」とニヤリ、笑われただけ。
答える気はさらさらないようだ。
掴んだ手は解かれて、逆に腕を捕らえられる。
そのまま引っ張られて、二軒隣の化粧品店に連れていかれた。
そこで私は、生まれて初めて化粧の仕方を教わることとなる。
頬に数種類の粉をはたいて、唇に紅を引く。
化粧をした金持ちの女性たちに憧れたことはないけれど、唇を赤くした自分の姿は新鮮で、鏡を見ながらこそばゆい心持ちでいた。
「色気が出てきたな」とジェイル様は満足げに頷いて、大きな手の平で私の頭を撫でた。
いつもの私なら子供扱いされた気分でムッとするところだが、今は頬が少しばかり熱くなり、恥ずかしさに目を逸らす。
照れくさいという言葉は、こういう気持ちのときに使うのかと、新しい感情の芽生えを感じていた。