公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

黒い上着の袖を掴んで引き止め、「青空マーケットを覗いてみてもいいかしら?」と問えば、「どうぞ」と彼は微笑して、爪先の向きを変えてくれた。


人混みに紛れ、木箱の中身をひとつひとつ興味深く見て回る。

真っ赤で美味しそうなリンゴが山と積まれた箱があり、そこに貼られた価格に目を丸くする。

安いわ……。

リンゴひとつが二セルダで買えるなんて驚きよ。ゴラスの価格はその三倍もするのに。

品物の流通量が少ない上に、暴君が法外な税をかけるから、ゴラスの物価は高くなる。

こんな安値でリンゴが食べられるなんて、王都の民は幸せね……。


食材だけではなく、ここに窯や鍋を持ち込んで調理したものを売る店もあった。

焼き魚の身をほぐして、野菜とともにバケットに挟んだものや、揚げパンにカラメルをたっぷりと纏わせた菓子。

平べったいパリパリしてそうな薄い食べ物は、なにかしら?

私には名前も知らない食べ物がたくさん売られていて、樽を背負ったワイン売りの男からワインを買って飲みつつ、立ち食いしている人が大勢いた。


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