イジワル部長と仮りそめ恋人契約
そんなことを考えていたら、店の出入り口の自動ドアが外側から開いた。
きょろきょろ辺りを見渡しながら入って来た背の高いスーツ姿の男性は、間違いようもなく兄の千楓だ。
私はゴクリと唾を飲み込み、片手を挙げて声を発する。
「……お兄ちゃん! こっち!」
店内をさまよっていたその視線が、ぴたりとこちらに固定する。
お兄ちゃんはひとつうなずくとカウンターで飲み物を注文し、紙コップ片手に私たちへと近づいてきた。
「悪い。少し遅れたか」
「ううん、時間ぴったりだよ」
私が言うと、「そうか」とつぶやいてネクタイを緩めるお兄ちゃん。
すると私の左隣にいた空木さんが、すっと無駄のない動きで1歩足を踏み出した。
ちょっぴり驚いて、思わず視線を向ける。
「はじめまして、千楓さん。俺は志桜さんとお付き合いさせていただいている、空木と申します」
完璧なまでの微笑みとともにそう言いきった空木さんが、いつの間に準備していたのかお兄ちゃんに向かって名刺を差し出した。
一瞬不意をつかれたような顔をしたお兄ちゃんも、すぐに自分の名刺を取り出して応戦する。
「ああ、ご丁寧にどうも。知っての通り、志桜の兄の一之瀬千楓だ」
ざわざわと心地よい喧騒が包むコーヒースタンドの片隅で、サラリーマンの神聖な儀式たる名刺交換が行われている。なんだろうこの状況は。
というか空木さん、そんなにこやかな顔で笑えるんですね。さすが営業マンです。
きょろきょろ辺りを見渡しながら入って来た背の高いスーツ姿の男性は、間違いようもなく兄の千楓だ。
私はゴクリと唾を飲み込み、片手を挙げて声を発する。
「……お兄ちゃん! こっち!」
店内をさまよっていたその視線が、ぴたりとこちらに固定する。
お兄ちゃんはひとつうなずくとカウンターで飲み物を注文し、紙コップ片手に私たちへと近づいてきた。
「悪い。少し遅れたか」
「ううん、時間ぴったりだよ」
私が言うと、「そうか」とつぶやいてネクタイを緩めるお兄ちゃん。
すると私の左隣にいた空木さんが、すっと無駄のない動きで1歩足を踏み出した。
ちょっぴり驚いて、思わず視線を向ける。
「はじめまして、千楓さん。俺は志桜さんとお付き合いさせていただいている、空木と申します」
完璧なまでの微笑みとともにそう言いきった空木さんが、いつの間に準備していたのかお兄ちゃんに向かって名刺を差し出した。
一瞬不意をつかれたような顔をしたお兄ちゃんも、すぐに自分の名刺を取り出して応戦する。
「ああ、ご丁寧にどうも。知っての通り、志桜の兄の一之瀬千楓だ」
ざわざわと心地よい喧騒が包むコーヒースタンドの片隅で、サラリーマンの神聖な儀式たる名刺交換が行われている。なんだろうこの状況は。
というか空木さん、そんなにこやかな顔で笑えるんですね。さすが営業マンです。