イジワル部長と仮りそめ恋人契約
両腕を組んだお兄ちゃんが、「ふむ」と言って自分の顎先を右手で撫でた。



「まあ……今のところ不審な点は見当たらないか。じゃあ、質問はとりあえずあとひとつで最後にする」



まだあるの?!と思わずあげかけた不満を、ぐっと飲み込む。

ここを乗り切れば、いたたまれないこの空間から抜け出せるのだ。あとひとつ。最後の質問だけ。



「どうぞ?」



空木さんはやはり涼しい顔をして、そんなふうに話を促した。

ぐいっと紙コップの中身をあおったお兄ちゃんが、それまでより真剣な表情で空木さんを見据える。



「今日ここにいるということは、じーさんが進めようとしている志桜の見合い話ももちろん知ってるんだろう? 空木くんは、それを聞いてどう思った?」



……ああ、その話も出しちゃうのか。

『どう思った』も何も、彼は私のお見合い話のことなんてまっっったく知らないです。なんなら名前だってついさっき教えたばかりです。

なんて、そんなこと言えるはずもない。私はひそかに両手を握りしめると、おそるおそる隣の空木さんへと視線を向けた。

お兄ちゃんの話を聞いた彼が、一瞬驚いたように軽く目をみはる。

けれどすぐに、ふっとその口元をやわらかく緩めた。



「……そう、ですね。俺よりも確実に、ずっとずっと志桜さんを幸せにしてくれるような男なら、大人しく身を引くべきなんでしょうけど……」



そこで言葉を区切った空木さんが、ちらと私を流し見る。

魅力的なその眼差しに、ドキッと心臓が高鳴った。



「志桜さんを想う気持ちは、俺だって誰にも負けませんので。おいそれと、彼女を手放すつもりはありません」



キッパリ、そう空木さんは断言した。

彼の返答を横で聞いていた私はひたすら自分のパンプスのつま先を見て、もうどうしようもなく恥ずかしくていたたまれない気分になっている。

だっていくらこの場を乗り切るための嘘だとわかっていても、こんなイケメンにあんな熱いセリフを言ってもらえるなんて。

今までの人生でこんなこと1度もなかったし、これからだってきっとないと思う。
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