イジワル部長と仮りそめ恋人契約
お兄ちゃんの方も、空木さんの熱烈な答えにはさすがに面食らったらしい。

目をまるくしてしばらく言葉を失っていたようだけど、我に返ったのかなんだかバツの悪そうな表情をする。



「……そうか。まあ、きみの本気度はわかった。一応、じーさんにもこのことは伝えておく」

「え、じゃあ──」



完全に空木さんに気圧された様子のお兄ちゃんに、食い気味で期待を込めた確認をしかけた。

だけどさらにそれを、お兄ちゃんから容赦なく遮られる。



「だが、俺の報告だけではあの偏屈じーさんは納得しないだろうな。先に俺を差し向けたとはいえ、最初からじーさんは直接おまえたちと会うつもりでいたから」

「え……」

「そういうわけで、志桜、空木くん。また1ヶ月後、今度は一之瀬の本家にふたりで来なさい。日程は決まり次第、俺から志桜に連絡する」



言うだけ言って、お兄ちゃんはあっさりこの場を去ろうとした。

つい呆然としてしまったけど、冗談じゃない。私は慌ててその腕を掴む。



「ちょっ、な、なんで私たちそこまでしなきゃ……」

「これまでおまえが、じーさんの言動に特に異議も申し立てず流されてきたツケだろ。今になって反抗されて、躍起になってるんだあの人も」



もう話は終わったとばかりに、肩をすくめる。

立ちすくむ私の横を通り過ぎ、「それじゃあ、またよろしく」と空木さんに声をかけた。

そして空木さんはといえば、お兄ちゃんのその言葉にうっすらぎこちない笑みを浮かべてこくりとうなずいただけ。

見ようによっては、“彼女の祖父に会う”というイベントに緊張しているだけに思えるかもしれない。

けれど私にはその表情が、不測の事態に思わず引きつりそうになる頬を必死に押さえ込んでいるようにしか見えなかった。
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