俺はお前がいいんだよ


「年齢は計算しなくていいのよ。高井戸さん。……どうぞ、おはいりになって」


うふふ、と艶めいた唇をゆるめて、社長のお母さんは私たちを案内してくれた。

どうやら部屋は全室個室らしい。廊下に沿って扉がいくつもある。その中の一室に案内された。


「お時間はあるの?」

「昼休みだから、あんまり」

「じゃあ早めにお出しするわね。ご注文は?」


渡されたけど、メニューを見ていると小さい体がますます小さくなってしまう。
だって、金額が私の想像を超えているもん。


「高井戸、食えないものあるのか?」

「いいえ。好き嫌いはなしです。量はそんなに食べられないんですけど」

「じゃあ、このセット。こいつのは少なめにしてやって」

「かしこまりました」


女将さんが部屋から出ると、桶川さんはメニューで私の頭を小突いた。


「好き嫌いなく食ってんのにちいせぇなぁ」

「なっ、ひどい。気にしてるのに」

「だからいいもん食えって言ってんだ。今日は俺のおごりだからな。いっぱい食えよ。残したら許さねぇぞ」

「おごりなら残しませんよー」


メニューを真剣白刃どりして、ちらりと彼の顔を見る。
長い前髪の陰から見える目はひどく優しく微笑んでいて、私は図らずもドキッとしてしまった。

な、なんだ。今の顔。
イケメンってやっぱりずるい。
笑うだけで、人のことこんなにドキドキさせるんだから。


「お待たせいたしました」


その後運ばれてきた料理は、どれもおいしくて、私は自分の味覚がどうにかなっちゃうんじゃないかと思った。


「……やばいです。これから、安いものが食べられなくなってしまう」


店を出てから青ざめる私の頭に、彼はいつものように肘をのせてきた。


「じゃあこれからは俺がうまいもん食わせてやるよ」


まじか。餌付けされてしまう。
いやもうされているのかも。だってなんだか彼の隣が居心地よくて、今も会社に戻りたくないなんて不埒なことを考えてしまっている。

ダメダメ、真面目に仕事しなきゃ。拾ってくれた社長に恩返しするんだよ、私は。
桶川さんに振り回されて、楽しんでる場合ではないんだってば。

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