俺はお前がいいんだよ


帰ってからは、夢のようなお昼ご飯を忘れるくらい、スパルタな時間が待っていた。


「俺と大崎さんの話分かったか?」

「半々ですね。正直、分からない単語のほうが多かったです」


メモ書きを見せると、桶川さんはそれを見ながら手で顎を支える。もちろん、肘の置き場は私の頭だ。
だからそれ、痛いんですってば。


「聞き取れてはいるんだな。じゃあ、今から俺が言うように資料を作ってくれ」

「手書きでくれたら清書しますが」

「手書きで書くくらいなら自分で打ったほうが早い。そうじゃなくて、お前が作れ。分からないところは全部教えてやるから」

「ええ? 私がですか? 無理ですよ。基礎知識が足りなすぎます。お客様に不備のある資料なんて出せませんよ」

「不備がないように俺がつきっきりで見てやるって言ってんだろ」


腕を組んで見下げられては、これ以上反論ができない。
まあどうせ、受付としての仕事などほとんどないのだし、私を雇ってくれたのは社長とはいえ、桶川さんの後押しがなければ実現などしなかっただろうし。……まあ、彼に逆らうなど選択肢にないのだけれど。


「分かりました、頑張ります」

「おう。どうせ大崎さんもそこまでわかってねぇよ。どこにシステム発注かけたのか知らないけど、穴だらけだったぞ」


怖いことを、平気な顔で言わないでください。


「じゃあ座れ。客先提出用のベースとなるファイルは共有サーバーにあるから、まずそこからコピーする」


基本的なことから、専門的なことまで。
意外にも、桶川さんの説明は丁寧で分かりやすかった。

途中に「分かるか?」と確認してくれるから、遠慮なく「分かりません」とも言える。
「お前なー」と呆れたように言いつつも、言い方を変えて説明してくれたから、私にも理解できた。
< 17 / 59 >

この作品をシェア

pagetop