俺はお前がいいんだよ

「まずここまでを、清書してみろ。終わったら見せて」

「はい」


一応受付に陣取りながらも、ノートパソコンとにらめっこ。
元々資料作りは得意なので、理解さえしてしまえばまとめるのは簡単だ。
ただ、前にいた会社と違うのは、図が多いこと。
コンピュータの構成図などをもとになるデータから引っ張ってきつつ、作るのにてこずった。
それでもできては確認してもらいまた説明してもらい……と繰り返していたら、気が付けば定時を過ぎていた。


「あ、……すみません。こんな時間ですね」

「残業、ちゃんとつけろよ?」

「でも私が分からないから時間がかかっているだけだし」

「人を育てている間の時間は投資と一緒だから気にすんな」


桶川さんの時間だって、無駄にさせてる。
資料を作るのが面倒くさい、と言っていたけれど、説明する時間を含めれば、自分で作ったほうが早いはずだ。

ちゃらんぽらんそうに見えるけど、そうじゃない。
桶川さんは私に、ちゃんと“仕事”を教えてくれてる。


「分かりました。早く使える社員になります」

「はは。前向きー。お前はそういうところがいいよな」


笑いながら、ポン、と頭を叩かれる。
私、疲れているのかもしれないな。嬉しいはずなのに、胸が詰まって苦しくて泣いてしまいそうなんだけど。


「まあ、なんとなく理解できただろ? 明日、客先で説明してみろよ」

「ええっ、私がするんですか?」

「大崎さんをあっと言わせてやれよ」


今日の、大崎さんの怪訝そうな視線がよみがえる。はたして信用足るのかと、疑念に満ちた眼差し。
初めて行くのだから見くびられても仕方ないかと、気になんてしてなかったのに。

実は、桶川さんのほうが気にしていたのか?

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