俺はお前がいいんだよ
「お前は俺の補佐だって、自分の力で認めさせてみろよ」
一見突き放したような言葉だけど。
突き放してないってことは、残業してまで懇切丁寧に教えてくれることからも明らかで。
うわ、なんだこの人。
顔を上げれば、不敵に笑われる。
ああ、もう、苦しい。胸がぎゅうぎゅう締め付けられる。
傍若無人なハッカーで、からかってばかりくる困った人だと思っていたのに、なんだ、実はすごく優しいんじゃないか。
嬉しくて恥ずかしくて、顔が熱くなってくる。
そんな顔を見られるのも嫌で、目をそらしつつ赤くなる頬を誤魔化すために茶化すように彼の腕を叩いた。
「そんなに私に補佐にいてほしいんですかー。やだなー、照れちゃう」
極めつけに、からかうようにあははと笑う。
これで私の変な気の迷いも飛び去ってくれるはず……と思っていたら上から重量感のあるげんこつが落ちてきた。
うおお、痛い。鉄槌がきたわ。
「バーカ。お前、言っとくけどな。うちの会社にいるならこれくらい常識だからな。知らねーと恥かくのお前だから。教えてやる俺に感謝しろよ」
「分かってますよ。冗談です」
分かってる。
桶川さんは社長からも一目置かれるくらいの実力者。
その彼に、教えを請えることがなんて贅沢なことかも。
だけど、そんなハイスペックなイケメンから優しくしてもらうと、勘違いしちゃうんだよ。
好かれてるのかもしれないなんて、馬鹿なことを考えてしまう自分がどうしようもなく恥ずかしくて、茶化さないとやってられないっての。
イケメンは豆狸な私など相手にするはずない。だから桶川さんも遊んでいるだけ。
彼は……私とは違うところに住んでるような人だもん。