俺はお前がいいんだよ
「おいしいです」
「だよな。高級な店もいいけど、やっぱりラーメンは捨てられない」
「チャーシュー最高です」
「ここのスープは魚介べースなんだよ」
スープを最後まで飲み干して、満足そうに水を飲む桶川さん。
「カロリー摂取を押さえるには、スープは我慢したほうがいいらしいですよ。塩分過多になります」
「でもこのスープがいいんじゃねぇか」
「中年になってからお腹出てきますよ。三十超えたら節制しないと」
「失礼だな、俺はまだ二十九だ」
「なんだ、私と二つしか違わないんですね。社長と同じ年なんだと思ってました。仲いいから」
「お前、二十七? うそだろ、二十五くらいだと思ってた」
「若く見えます?」
「いや、幼く見える」
「しっつれー!」
軽く叩くと、楽しそうに笑われる。
ああ、こんなことしてると楽しくて駄目だ。
ハイスペックイケメンには、出来れば手の届かないところに居てほしいのに、このままじゃ桶川さんに恋をしてしまいそうだよ。
食べ終えた後の会社の最寄り駅で電車がホームに到着したとき、桶川さんは「じゃあな」と私に手を振った。
一緒に乗るもんだと思っていたのから、思わず瞬きをしたら、トンと背中を押されて電車へと乗るよう促された。
「この時間なら電車のほうが早いからな。気をつけろよ」
その言葉に、ああそういえば桶川さんは車だっけ、ということに気付いて、電車が走り出してから、遠ざかるホームを振り返ってみてしまった。
しばらくホームを眺めていた彼はやがて踵を返す。そのうちに電車は緩いカーブに入ってホームは見えなくなった。
「わざわざ、見送りに来たってこと?」
顔が熱くなって、扉によりかかって顔を押さえた。
もう、勘弁して。これ以上、勘違いさせないでよ。
しばらく男の人はいいのに。
恋なんて、したくないのに。
凄い吸引力で桶川さんに惹き付けられてる。