俺はお前がいいんだよ


翌朝、私は早めに出社し、昨日の資料に取り掛かった。

不思議なもので、一日時間を置くと少し頭が整理される。
昨日よりもすっきりとまとまった資料になってきた。説明があいまいな部分にマーカーを入れ、桶川さんに確認をお願いするメールをだす。

そのうちに出社してきた亀田さんが「おはよう」とさわやかな声をかけてくれる。


「おはようございます!」

「高井戸さん、いつも朝早いね」

「あー、朝は得意なんです」

「なんか元気で可愛いよね」

「そうですか? あはは、ありがとうございまーす」


軽く受け流していると、後ろからやって来た桶川さんが亀田さんの頭を掴んだ。


「あー? 職場でたらしこんでんじゃねぇよ」

「それ、桶川さんが言いますか?」

「俺はいいんだよ。高井戸。資料午後までにできそうか?」

「もうほぼ出来ました! でもあやふやなところを確認してほしいんですよ。メールでも出したんですけど、これです」

「へ……」


一瞬、桶川さんの動きが止まる。プリントアウトした資料を渡すと食い入るように見ている。

桶川さんの目はすごい速さで右と左を行ったり来たり。
ああ、この人やっぱり仕事できる人なんだなぁと改めて思う。
やがて、桶川さんの唇が、くっと上を向くのを見た。


「……いいな。昨日のよりすっきりとまとまっていて分かりやすい。お前、使えるじゃん」

「でしょでしょ。私ってば有能なので」

「調子に乗んな」


資料で頭をポン、と叩いて、桶川さんはデスクに向かう。亀田さんも私たちをニヤニヤ見ながら席に向かった。

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