俺はお前がいいんだよ


印刷して資料を整えたのが、十一時。最後に説明にかかわるレクチャーを桶川さんからうけ、準備は万端。
桶川さんは「午後からでるぞ」と言いながら上着を羽織る。


「午後からですよね?」

「昼も外だ」

「私もですか? 太りそうだからやめておきます。ここのところ毎日外食ですもん」

「弁当持ってきてるわけじゃないんだろ?」

「下に来てる移動販売のお弁当さんでヘルシー弁当を買う予定です」

「んだよ」


不満げに、ポケットをまさぐった彼は、私に向かってポンと財布を投げつけた。


「え? え? え?」

「それで買って来い。俺の分もだぞ」

「え? なんで。桶川さんはどこかでお昼食べてこればいいじゃないですか。社長とかと」

「男の顔なんて見て食っても面白くない」

「それに、奢ってもらってばかりいられませんよ。あ! いつものお礼に私が奢ります」


昨日の料亭みたいなところだったら無理だけど、弁当くらいなら安いものだ。


「……お前が夕飯付き合うっていうなら奢られてやる」

「なんですかそれ」

「いいからさっさと行って来いよ。昼になっちまうじゃないかよ」


普通、お弁当はお昼休みに入ってから買いに行くもんだよ、と困って周りを見渡すと、社長室の前にいた社長と目があった。


「いいよ。高井戸さん行っておいで」


どうやら一部始終を聞いていたらしい。


「はあ。じゃあ行ってきます。桶川さんどんな弁当がいいですか?」

「なんでもいいよ。同じもん買って来い」

「でもヘルシー弁当は量少ないですよ。桶川さんくらい大きかったら足りないでしょ。スタミナ弁当でいいかな」


最近おごってもらってばかりなので、少し豪勢なお返しをしよう。と言っても、移動販売車のお弁当屋さんの贅沢など、せいぜいスープをつける程度のものなのだけど。

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