俺はお前がいいんだよ
エレベータで一階に下り、ビル前に昼の数時間だけ出店する移動販売車の列に並んだ。
十二時前に出られたから、割とスムーズに買えた。
スープは蓋つきのカップに入れてもらって、お弁当の袋とは別に袋に入れてもらう。お腹がすいちゃう香り……とホクホクとしながら振り向いた時、いるはずのない人を見つけて、息が止まった。
「や、やあ。高井戸さん。久しぶりだね」
片手をあげてにっこりと微笑むのは、見まごうことなき森上さんだ。
カバンについているビジネス使用のキーホルダーも、裏面に色鮮やかなアニメキャラが見える。
なんでわざわざシンプルなキーホルダーに手を加えるのか全くもって分からない。
て、そうじゃなくて。なんでこの人がここにいるの?
「……どうして」
「急に会社辞めたからびっくりしたよ。僕ね、今、このビルの十階にある会社に仕事で来ていて」
「え……あ。……そうなんですか」
「高井戸さんは辞めてからどうしてたの? 携帯番号も変わっちゃったから、連絡取れなくて困ってたんだ。また部屋に行こうかなって思ってたくらい」
嫌だ、怖い。
膝が震える。私の手からビニール袋が落ち、弁当が落下した。
「あ」
「大丈夫? あーこれ食べられるかな。ね、久し振りに会ったんだし、これ捨てちゃって、ランチでも食べない? 僕奢るし」
私の表情なんて気にもしていないように、明るい調子で話す森上さんが、怖い。
時間がたって忘れたつもりだったけど、会社さえ辞めたいって思ったときの恐怖心がよみがえってきた。