俺はお前がいいんだよ
「そ、そうなんですよ。やっちゃった! 代金払いますから、桶川さん外で食べてきてくださいよ」
笑顔を作れていると思う。
大丈夫だ、私。普通に話せている。動揺してなんていない。拳をしっかり握りしめて、浅く呼吸を繰り返した。
と、桶川さんのほうからパチンと割り箸を割る音がした。
「うまいうまい。いいからお前も座って食えよ。こっちが落ち着かねぇ」
「え?」
「お、スープもあるんじゃん。おー泡立ってる」
桶川さんは、ぐちゃぐちゃになったお弁当を次々口に入れていく。そして立ち尽くしている私の手を、強く引っ張って座らせた。
「気にすんなって。別に弁当落としたくらいで怒ったりしねーよ」
器用に割り箸を操る長い指、ごはんとハンバーグソースが混ざったものを、大口を開けて放り込む。ぐっちゃぐちゃのお弁当なんて、こんなハイスペックな人には似合わないのに。
「……うっ」
「高井戸?」
「なんでもないです。食べますっ」
やばい。うっかり泣いてしまいそうだ。
でも会社で泣くような情けないことはしたくないから、必死に歯を食いしばった。
たかがストーカー男の再来なんかで泣くもんか。
強くなるんだ。
ただでさえ、見た目はどうにもならない豆狸なんだから、せめて中身くらいは、強くていい女になりたい。