俺はお前がいいんだよ


 とはいえ、私はやっぱり動揺していたのだろう。

いざ、大崎さんを前にして説明を始めて、最初は流ちょうに話せていたのだけど、途中から調子が悪くなってしまった。
なまじ内容が外部からの不正アクセスとかハッキングとかいう内容なので、森上さんのストーキング行為を連想させられて気持ちが悪くなってしまったのだ。


「で。……ええと。その」


徐々にしどろもどろになり、こみあげてくる吐き気を堪える私に、大崎さんは怪訝な視線を向ける。

桶川さんは、珍しく愛想笑いを振りまきながら、「アクセス管理だけでもダメだということですよ。ハッカーはあの手この手で方法を考えます。メールによってウィルスをダウンロードさせ、内側から攻撃することだってできる。今回はこれで対処できますが、今後のことも考えてお勧めしたいのがこの提案書です」と話の続きを引き取ってくれた。

私は、そのまま椅子に座る。この場で出してはいけないとわかっていたのに、大きなため息がでてしまった。

桶川さんが前に立ったことで大崎さんは安心したようだ。
定期的なサービスの契約についても前向きで、ご機嫌で見送ってもらう。
私は、堂々と歩く桶川さんの脇で情けなさに肩を落としていた。


「……すみませんでした」

「いいよ。最初からうまくできる奴なんていないだろ。それより、おまえ、今日なんかあったのか? 昼からずっとおかしいよな」

「別に」

「もうじき定時だし、直帰するか。飯おごってやるよ」

「結構です。帰って今日の報告書を作ります」


桶川さんに慰められるなんて御免だ。

彼の補佐として認められるようになってやる、なんてとんだ思い上がりだ。
やっぱり私なんて駄目だ。たまたま資料作りが得意なだけの小娘が、運よく拾ってもらえただけで。私の人生の運はきっとそこで使い切ってしまったんだよ。

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