俺はお前がいいんだよ
「ちが……」
反論しようとしたその時、私の足が宙に浮いた。
見える視界が反転して、私の目に入ってくるのはスーツの大きな背中と床の模様。森上さんは完全に視界から消えた。私は、まるで米俵のように桶川さんの肩に担がれてしまっている。
「なんだよ、アンタっ」
「悪いけどこいつはアンタにはやれないから。……俺知ってんだよね。アンタ、森上高太郎(こうたろう)だろ? 学生時代はコンピューター部で、大学の構内システムに侵入した前科がある。綺麗に隠したようだけど、探そうと思えば探せる。その後就職しても、気に入った女の子がいれば、社内ネットワークに侵入してデータを入手していただろ」
「ええっ?」
なにそれ、犯罪じゃない。
なんでそんなこと桶川さんが知ってるの?
「な、なにを証拠に……」
森上さんの声が弱々しく震えている。私からは見えないけれど、動揺はしているみたいだ。
「アンタの会社の部長さん? ちゃんと気付いていたよ。高井戸にストーカー行為を働いていることもな。でもアンタは社長と縁故がある。だから大っぴらにアンタを糾弾することははばかられた。部長さんは見かねて、とにかく不正アクセスの証拠が入手できるかと、女子社員のデータの保護について俺たちに相談していたわけ」
「あ……」
社長と桶川さんの仕事って、そんな内部のことだったんだ。
「あの時は、当時被害に遭っていた高井戸をうちの会社で迎えることになったから、データの保護を厚くしただけで、アンタの処分までには至らなかったんだ。でも、これ以上こいつを追うようなら、俺が証拠を手に入れてアンタを訴えるけどいい?」