俺はお前がいいんだよ
「ぐ……、な、なんだよ。アンタ。関係ないだろ? 別にアンタなら高井戸さんじゃなくたって、女になんて不自由してないだろ」
桶川さんは私を肩から降ろし、足を付けさせたかと思うと背中に手を回して、胸に抱きかかえた。
身長差が半端ないから、子供が親にでも抱きしめられているみたいだ。
「あいにく、おもしろい女には飢えてんだよ。こいつはアンタにはやらないよ。最初に会社の廊下で話した時から、俺はこいつを口説くって決めてたんだから」
「はぁっ?」
思わず声を上げてしまったのは私で、森上さんはわなわなと震えている。
「ちょっとなんですかそれ」
「その反応のほうがどうだよ。俺、結構分かりやすく口説いてたつもりだけど、お前鈍感だな。今の今まで気付かなかったのか?」
「分かるわけないでしょう? 桶川さんみたいなハイスペックに好かれるなんて思わないもんっ」
私と桶川さん顔を赤らめながら言い合っていると、森上さんのうめきのような低い声が聞こえてきた。
いけない。存在を一瞬忘れていたよ。
「……ふざけるなよ。結局高井戸さんも、顔のいい男がいいんだ? 女なんてみんなそうだよな」
そりゃそうでしょう、とは流石に言えなかったけれど。
いや、イケメンが好きじゃない人もいるだろうけど、だからと言ってストーカー気質のあるあなたを好きにはならないと思うよ。
「ブス!チビ! なんだよ。お前なんて……」
私の悪口に発展した森上さんが、途中で黙った。
どうしてかなと思って、彼の視線をたどったら、桶川さんが人ひとり殺してきたような、恐ろしい形相で睨んでいる。