俺はお前がいいんだよ
「お前……社会的に抹消されたいか? 俺が本気になれば、過去の犯罪を洗い出して告発することもできるぞ? それともお前が昔やったようにねつ造してやろうか。借金取りの取り立てリストに加えることくらい造作もないぞ?」
「なっ、そんなことができるわけ」
「できるんだよ。今でこそしないけどな。されたくなければ、もうここに来るなよ。高井戸にちょっかい出したら殺すぞっ」
最後のほうは、桶川さんのほうが警察呼ばれてもおかしくないくらい凄みのある声で叫んでいた。私は思わず周りを見回してしまった。ロビーには数人いたけれど、みんな遠巻きに見守っている。ここから通報する人が現れないことを祈ろう。
「……くっ。いいよ、こっちから願い下げだよ、そんなブス」
彼は私を睨みつけて、捨て台詞を残して去っていった。
ぞっとしたの半分とムカついたの半分で、桶川さんにしがみついたまま思わず舌打ちして言ってしまった。
「ちっ、ゲスが。アンタに言われるほどブスじゃないっての」
言ってから、あ、これは女子としてはだめなやつ、と思ったけれど、それを聞いた桶川さんはお腹を抱えて大爆笑し始めた。
「そんなでかい声で笑わないでくださいよっ」
「お前は、ホント面白いな」
「もう、離してください」
「いや。お前足震えてるじゃん。このまま連れてくよ」
「は?」
「お騒がせしましたねーっと」
桶川さんは傍観している人たちに軽く頭を下げると、私をお姫様抱っこで抱え直して、エレベーターに乗る。
ガラスに映る姿として見ちゃうと、恥ずかしくてたまらない。