俺はお前がいいんだよ
パンドラの箱を開けたみたいに、言わないようにしていたネガティブな言葉が私から飛び出してくる。
駄目だって、これ以上言っちゃったらもう私、涙が我慢が出来なくなるから。現に喉がひりひりしてきている。
「……桶川さんの傍に、こんな豆狸がいたらおかしいでしょう」
目が熱い、顔が熱い。眉をひそめている桶川さんの顔も、輪郭がぼやけて見える。
頬を伝った滴は顎を流れ落ち、床まで一気に落ちていく。
自然落下運動だな。
これって、恋する気持ちにも、適用できるのかもしれない。
いくら、彼には似合わないからなんて自分の気持ちを抑えようとしても、一緒にいるだけで想う気持ちは重量を増し、転がりだしたら止まらない。恋に落ちるのには抗えないんだ。
「あほ、何がおかしいんだよ。微笑ましいだろ、マスコットみたいで。……それに」
壁についていた両手が、私の肩を掴みぎゅっと胸に引き寄せる。
「お、桶川さんっ?」
「人にどう思われても、俺はお前がいいんだよ」
……「な、豆狸?」なんて。
耳もとでからかうように囁いて。
私は、嬉しいやら悔しいやら複雑な気持ちになって、とりあえず思い切りしがみついた。
身長差三十五センチ以上の私の頭は、桶川さんの胸のあたりにぴったり頭が付く。背中に腕を回されたら、完全に包み込まれたようで、なんだかとても、安心してしまった。
しばらくそうしていたら、脳天から桶川さんに名前を呼ばれる。
「高井戸」
「なんですか」
「ところでお前はさっきから俺にこんなに告白させておいて、返事はしない気なのか」
「え? してますよね」
どう見ても気がある発言してるじゃん。