俺はお前がいいんだよ
*****


目が覚めるといつもの光景。プラス汗臭く酒臭い。前髪にかかる息に、私は眉をひそめてブチ切れる。


「……酒臭いですよ!」


そうしたら、桶川さんはゆっくり目を開けて、けだるそうに私を見た。


「もうっ、なんなんですか。昨日あんなこと言って出ていったくせに。お酒飲みに行ってたんですか! しかもお風呂も入ってないっ」

「お前もだろ」


言われて自分の服を見る。……本当だ。
あれ、私昨日どうしたんだっけ。なんかやけっぱちになって泣いて、……あ、そのまま寝ちゃったのか。


「そ、それはそうなんですけど」


先ほどの勢いはどこへやら。すっかり弱気になって、私は口ごもる。


「あのさぁ、高井戸」


横になったままの桶川さんは、私の頭にポンと手を置き、相変わらずお酒臭い息を吐く。そして、釣り目の目尻をこれでもかというほど下げて笑った。


「……ただいま」


もうそれだけで、昨日からの心のこわばりが解け、私の涙腺は崩壊した。だばーっと一気に流れ落ちる涙。
桶川さんは驚いたように目を見開いてしまって、素敵な笑顔は一瞬でどこかへ行ってしまった。
もったいない、もっと見ていたかったと思いながらも、もうそんなこともどうでもいい。
桶川さんが戻ってきてくれたってそれだけで、もう他のことなんてなんでもよくなった。


「……っ、もうっ、ばかっ」


好き。大好き。
これ以上桶川さんを好きになるのが怖かったのに、喧嘩したって好きになるんだったらもうどうしたらいいか分からない。


「悔しいっ。なんで私、こんなに桶川さんが好きなのっ」

「お、おい」


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