プレシャス~社長と偽りの蜜月~
「雅人…命令よ。私のファーストキスを奪って」

どんな命令にも従って来たが、この命令だけは訊けなかった。

「それは出来ませんよ。お嬢様。キスは好きな方とお交わし下さい」

「私は雅人がスキなの!!」

それは何よりも嬉しい言葉。朱音が俺のような下々の者に好意を抱いてくれている。

でも、俺は自身の立場を弁えていた。


身分差が朱音に対するキモチに蓋をしていた。


「雅人…もしかして好きな人がいるの?付き合っている人が居るの?」

「交際している方は居ませんが。スキな人は居ます」

―――――俺の好きな人は朱音だと本当は言いたかった。


それは今の俺の立場で言えない。

そのキモチ自体が烏滸がましかった。


朱音の声が鼓膜に切なげに響き、胸を締め付ける。

俺は結果的に朱音のキモチを踏みにじってしまった。傷つけてしまった。



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