Marriage Knot

「副社長のニット、着てみたいよね。遠くから見ただけで、手触りがよさそうな毛糸で、模様もとてもきれいで……。結もとっても編み物うまいけれど、その結が難しいっていう棒針編みをあんなにこなしちゃう副社長、素敵……。そして、あんなにイギリス好きで、英語ペラペラで、法学部出身で元官僚だったのを蹴ってうちの会社の副社長になったなんて、すごすぎるよね。才能って、ある人のところには固まってあるものなのね。副社長は二物どころか何物も持ってるわ。しかもチェロがうまくて……セレブリティってこのことよね。落ちては……いないのが残念」

茉祐は、まだ「彼氏が落ちていないか拾得物係へ」という私の冗談を引きずっているようだ。

私は編みながら手汗を感じていた。久しぶりの太めのかぎ針が滑り、秋冬コレクション新作の毛糸がちょっぴりチクチクする。その感覚が、私の心の中の副社長へのあこがれをかきたてて、針のように刺激する。

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