MAZE ~迷路~
「おなか減っちゃった。」
美波が言うと、有紀子はちょうど夕食をテーブルに並べていた。
「智さんと仲直りしたの?」
有紀子は訊くと、美波の茶碗にご飯をよそってくれた。
「ん、智じゃないよ。」
美波が言うと、有紀子はじっと美波の事を見つめた。
「美波、何か隠し事してるでしょ。」
有紀子の言葉に、美波はしっかりと心をプロテクトした。
「最近、ずっとそうだわ。しっかりと扉が閉まってる。いつもの貴方は、そんなに警戒心が強くないのに。」
有紀子に言われて、美波は笑って見せた。
「智と喧嘩してるからよ。それに、最近、仲間が傍にいる気がするの。」
「それって、翔悟さんのお友達とかいう人のこと?」
「違う。街で感じるの。ふと。だから、しっかりガードしてるの。翔悟の伝言伝えてくれたお友達も、私たちが追われてる事に変わりないって。そう言ってた。」
美波が言うと、有紀子はため息をついた。
「そうね。ママは力が弱いから関係ないといっても過言じゃないけど。美波は力が強いから・・・・・・。でも、絢子ちゃんが亡くなってから、力、弱くなってるんでしょ?」
有紀子は、探るように問いかけた。
「まあね。でも、何か変な夢も見るから。ちょっと気になっちゃって。」
「地震?」
「違う。そういうんじゃないの。でも、何か、良くない事が起こる気がする。」
美波が言うと、有紀子は食事の手を止めて美波の事を見つめた。
「気をつけなさい。翔悟さんもいない今、智さんに話さないといけないかもしれないわ。」
有紀子の言葉に、美波は頭を横に振った。
「だめ。智には話したくないの。敦ならいいけど。」
美波の言葉に、有紀子はため息をついた。
「隠し通すのは大変よ。智さんは、パパみたいに家にいることが少ないお仕事じゃないんだから。」
有紀子の言葉に、美波はじっと有紀子の事をみつめた。
「ママ、それでパパと結婚したの?」
「まさか、そんなわけないでしょ。」
有紀子は言うと、笑って見せた。
「でも、それを言ったら、敦が相手だったら、もっと大変だよね。」
美波は言うと、おかずをほおばった。
「そうね。智さんは、毎日会社に出勤するけど、敦ちゃんは、家にべったりですものね。」
有紀子も、考え深げに言った。
「でも、なんで敦は就職しないで、家で出来る仕事にしたんだろう?」
美波の問いに、有紀子は美波のことを見つめた。
「敦ちゃんが、家で出来る仕事にしたのは、美波のためだと思うわよ。」
有紀子の言葉に、美波は有紀子のことを見つめた。
「なんで?」
「だって、あの頃の美波は、目が離せなかったでしょう。だから、敦ちゃん、いつでも美波の助けになれるようにって、そう考えてたもの。」
「だから、家で出来る仕事かぁ・・・・・・。・・・・・・でも、その頃、もう智と付き合ってたし、私、ちゃんと敦には智と付き合ってるし、もしかしたら結婚するかもって話してたよ。」
責任逃れするように、美波は言った。
「それは美波の問題。でも、美波が結婚しても、いつでも美波の力になりたいって敦ちゃんは思ってた。見返りを求めない尊い愛情よ。だから、いつもでも、どんな時でも敦ちゃんは美波の味方でしょう。」
有紀子の言葉に、美波はいつも自分の事を第一に考えてくれる敦のことを思った。
「そうか、私にとっての一番が敦じゃなくても、敦にとっての一番は、今でも私なんだ。」
「そうね。いつか、違う人が一番になる日は来るかもしれないけれどね。」
「それで、良いのかな?」
美波は、有紀子に向き直って問いかけた。
「それは、敦ちゃんの問題。あなたが何かできることじゃないわ。」
「やっぱり、敦には秘密話してもいい気がする。必要があれば。」
「そうね。そういう必要があればね。ない事を祈るけど。」
有紀子の言葉に、美波も無言で頷いた。
「とにかく、何かあったらすぐに言うのよ。」
「わかった。」
美波は言うと、笑って見せた。
食事の片付けが済んだ頃、智から電話がかかってきた。
「ちょっと待ってね、いま、美波にかわります。」
有紀子は言うと、『智さん』といって受話器を渡してくれた。
「もしもし、なに?」
美波のそっけない言葉に、有紀子は心配になって美波の事を見つめた。
(・・・・・・・・ここまできて、本当に婚約解消するなんて言わなきゃいいけれど・・・・・・・・)
有紀子は考えながら、自分の部屋に戻っていった。
『なにって言う事ないだろ。携帯にかけても出ないから、具合でも悪いのかと心配してたのに。』
智は言うと、すこし安心したようだった。
「智ったら、心配しすぎ。」
美波は言うと、笑い声をあげた。
『しすぎじゃないだろ。この間まで、疲れた疲れたって言ってたくせに。』
智は、ちょっと気分を害した様子だった。
「ごめん。確かに疲れてるけど、どうしても自分で決着つけたいから。」
『わかったよ。美波が納得するまで待つよ。』
智は、仕方なく言った。
「ありがとう。決着がついたら、智とずっと一緒にいるから。」
『待ってる。でも、できる事があったら、言ってくれ。俺は、ずっと美波の味方だから。』
「ありがとう。じゃあ、おやすみ。」
『愛してる。』
「ありがとう、私も。」
美波は言うと、電話を切った。
受話器を置くと、美波は二階に上がっていった。
☆☆☆
智には、妙に聞き分けのいい美波が不安だった。素直に電話を切ったものの、智は美波が何かを企んでいるように感じていた。
(・・・・・・・・何かが変だ、美波が素直すぎる。あの敦と喧嘩した日、いったい美波は、誰と一緒にいたんだ?・・・・・・・・)
智は決して感の良い方ではなかったが、何か良くないことが起こるような気がしてたまらなかった。
(・・・・・・・・何があっても美波を失いたくない。どんな事があっても・・・・・・・・)
智は考えると、自分が以前にも増して美波に依存している事を感じた。
昔の智は、どちらかと言えば一匹狼で、敦のように友達としょっちゅう出かけたり、飲んだりするタイプではなく、単独行動が多かった。
言葉が足りないと言ってしまえば簡単だが、智としては、もっと深く自分の事を理解してくれる相手が欲しくて、恋愛関係が順風満帆だった事はなかった。どんな相手も、智を理解してくれているとは感じられず、すぐに終わりがやってきた。
敦が友達を紹介してくれた事もあったが、結局、美波に出会うまで、智自身、自分が誰かに依存して生きるなどと考えた事すらなかった。
考えてみれば、智には、敦より親しい友達もいない気がした。
(・・・・・・・・美波と敦・・・・・・・・)
智は自分の人間関係が、完全に美波を中心に構成されていることに苦笑した。
(・・・・・・・・俺、美波がいなくなったらどうするんだろう・・・・・・・・)
智は漠然と考えながら、頭を横に振った。
(・・・・・・・・そんな事、考えられないし。考えたくない。今度の週末、もう一度、美波とゆっくり話し合おう・・・・・・・・)
智は考えると、目を通す途中だった仕事の資料を手に取った。
(・・・・・・・・家に仕事を持ち帰るのは、独身の間だけ。結婚したら、家での時間は美波と過ごすんだから、仕事の持ち帰りはなしだな・・・・・・・・)
美波との結婚生活を想うと、智はとても幸せな気持ちになった。
(・・・・・・・・予定より遅れたって、ずれたって構わない。大切なのは、美波と幸せになる事・・・・・・・・)
智は心の中で思うと、仕事を続けた。
☆☆☆
桜の花びらが風に舞っていた。スカートを広げたように鮮やかな枝垂れ桜は、まぶしいほどにその花びらを広げていた。
「ティンク、待って。」
美波は言うと、突風に瞳を閉じた。
「美波は目が大きすぎんだよ。だから、すぐにごみが目に入るんだよ。」
絢子の声だけが、風の音と一緒に美波の耳に届いた。
「ティンク、ちょっと待ってったら。」
美波は言うと、慌てて絢子の後を追おうとした。
『急がなくっていいよ。』
突然、翔悟の声が聞こえた。
「翔悟・・・・・・。」
美波が言うと、翔悟はまだ目を閉じたままの美波の肩を優しく抱いてくれた。
「美波、こすっちゃ駄目だよ。」
翔悟は言うと、美波の手に目薬を握らせてくれた。
「ありがとう。」
美波は言うと、すばやく目薬をさした。
いつもはスーッとした、爽涼感があるのに、今日は何も感じなかった。
「絢子も、こっちに来て座ろう。」
翔悟の言葉に、絢子もすぐに戻ってきた。
「翔悟は、いっつも美波に優しいんだから。」
絢子が言うと、翔悟は絢子の手を掴んで引き寄せた。
「美波にだけじゃないさ。絢子にだって・・・・・・。」
見つめ合う翔悟と絢子の唇が、いまにも触れ合いそうで美波は顔を伏せた。
再び激しい風が吹き、美波は瞳をとじた。
☆☆☆
「美波、聞いてないだろう。」
絢子の声に、美波は驚いて目を開けた。
絢子の姿は、さっきより少し大人びて見えた。
「ティンク。ごめん。」
美波が言うと、絢子は美波の頬に手を伸ばした。
「翔悟、なんで帰っちゃったんだろう。」
絢子の言葉に、美波は自分が想い出の中を旅しているのだと感じた。
「翔悟は、きっと私たちが二人になっているから、困っちゃったんだよね。」
絢子は言うと、ため息をついた。
「翔悟になら、美波をあげても良かったのに。」
絢子の言葉に、美波は目をふせた。
「翔悟は、ティンクの方が好きだったのよ。だから、ティンクがそんな事ばっかり言うから帰っちゃったのよ。」
美波が言うと、絢子はもう一度ため息をついた。
「眠いね。このまま、昼寝しちゃおう・・・・・・。」
絢子は言うと、コンクリートの上に横になった。
「先生に見つかったら怒られるよ。」
そういう美波の手を絢子は引っぱって横にならせた。
「大丈夫、自習なんだから、先生来ないって。」
絢子は自信たっぷりに言うと、両目をとじた。
美波も暖かい日差しに、眠気が襲ってくるのを感じた。
☆☆☆
美波が言うと、有紀子はちょうど夕食をテーブルに並べていた。
「智さんと仲直りしたの?」
有紀子は訊くと、美波の茶碗にご飯をよそってくれた。
「ん、智じゃないよ。」
美波が言うと、有紀子はじっと美波の事を見つめた。
「美波、何か隠し事してるでしょ。」
有紀子の言葉に、美波はしっかりと心をプロテクトした。
「最近、ずっとそうだわ。しっかりと扉が閉まってる。いつもの貴方は、そんなに警戒心が強くないのに。」
有紀子に言われて、美波は笑って見せた。
「智と喧嘩してるからよ。それに、最近、仲間が傍にいる気がするの。」
「それって、翔悟さんのお友達とかいう人のこと?」
「違う。街で感じるの。ふと。だから、しっかりガードしてるの。翔悟の伝言伝えてくれたお友達も、私たちが追われてる事に変わりないって。そう言ってた。」
美波が言うと、有紀子はため息をついた。
「そうね。ママは力が弱いから関係ないといっても過言じゃないけど。美波は力が強いから・・・・・・。でも、絢子ちゃんが亡くなってから、力、弱くなってるんでしょ?」
有紀子は、探るように問いかけた。
「まあね。でも、何か変な夢も見るから。ちょっと気になっちゃって。」
「地震?」
「違う。そういうんじゃないの。でも、何か、良くない事が起こる気がする。」
美波が言うと、有紀子は食事の手を止めて美波の事を見つめた。
「気をつけなさい。翔悟さんもいない今、智さんに話さないといけないかもしれないわ。」
有紀子の言葉に、美波は頭を横に振った。
「だめ。智には話したくないの。敦ならいいけど。」
美波の言葉に、有紀子はため息をついた。
「隠し通すのは大変よ。智さんは、パパみたいに家にいることが少ないお仕事じゃないんだから。」
有紀子の言葉に、美波はじっと有紀子の事をみつめた。
「ママ、それでパパと結婚したの?」
「まさか、そんなわけないでしょ。」
有紀子は言うと、笑って見せた。
「でも、それを言ったら、敦が相手だったら、もっと大変だよね。」
美波は言うと、おかずをほおばった。
「そうね。智さんは、毎日会社に出勤するけど、敦ちゃんは、家にべったりですものね。」
有紀子も、考え深げに言った。
「でも、なんで敦は就職しないで、家で出来る仕事にしたんだろう?」
美波の問いに、有紀子は美波のことを見つめた。
「敦ちゃんが、家で出来る仕事にしたのは、美波のためだと思うわよ。」
有紀子の言葉に、美波は有紀子のことを見つめた。
「なんで?」
「だって、あの頃の美波は、目が離せなかったでしょう。だから、敦ちゃん、いつでも美波の助けになれるようにって、そう考えてたもの。」
「だから、家で出来る仕事かぁ・・・・・・。・・・・・・でも、その頃、もう智と付き合ってたし、私、ちゃんと敦には智と付き合ってるし、もしかしたら結婚するかもって話してたよ。」
責任逃れするように、美波は言った。
「それは美波の問題。でも、美波が結婚しても、いつでも美波の力になりたいって敦ちゃんは思ってた。見返りを求めない尊い愛情よ。だから、いつもでも、どんな時でも敦ちゃんは美波の味方でしょう。」
有紀子の言葉に、美波はいつも自分の事を第一に考えてくれる敦のことを思った。
「そうか、私にとっての一番が敦じゃなくても、敦にとっての一番は、今でも私なんだ。」
「そうね。いつか、違う人が一番になる日は来るかもしれないけれどね。」
「それで、良いのかな?」
美波は、有紀子に向き直って問いかけた。
「それは、敦ちゃんの問題。あなたが何かできることじゃないわ。」
「やっぱり、敦には秘密話してもいい気がする。必要があれば。」
「そうね。そういう必要があればね。ない事を祈るけど。」
有紀子の言葉に、美波も無言で頷いた。
「とにかく、何かあったらすぐに言うのよ。」
「わかった。」
美波は言うと、笑って見せた。
食事の片付けが済んだ頃、智から電話がかかってきた。
「ちょっと待ってね、いま、美波にかわります。」
有紀子は言うと、『智さん』といって受話器を渡してくれた。
「もしもし、なに?」
美波のそっけない言葉に、有紀子は心配になって美波の事を見つめた。
(・・・・・・・・ここまできて、本当に婚約解消するなんて言わなきゃいいけれど・・・・・・・・)
有紀子は考えながら、自分の部屋に戻っていった。
『なにって言う事ないだろ。携帯にかけても出ないから、具合でも悪いのかと心配してたのに。』
智は言うと、すこし安心したようだった。
「智ったら、心配しすぎ。」
美波は言うと、笑い声をあげた。
『しすぎじゃないだろ。この間まで、疲れた疲れたって言ってたくせに。』
智は、ちょっと気分を害した様子だった。
「ごめん。確かに疲れてるけど、どうしても自分で決着つけたいから。」
『わかったよ。美波が納得するまで待つよ。』
智は、仕方なく言った。
「ありがとう。決着がついたら、智とずっと一緒にいるから。」
『待ってる。でも、できる事があったら、言ってくれ。俺は、ずっと美波の味方だから。』
「ありがとう。じゃあ、おやすみ。」
『愛してる。』
「ありがとう、私も。」
美波は言うと、電話を切った。
受話器を置くと、美波は二階に上がっていった。
☆☆☆
智には、妙に聞き分けのいい美波が不安だった。素直に電話を切ったものの、智は美波が何かを企んでいるように感じていた。
(・・・・・・・・何かが変だ、美波が素直すぎる。あの敦と喧嘩した日、いったい美波は、誰と一緒にいたんだ?・・・・・・・・)
智は決して感の良い方ではなかったが、何か良くないことが起こるような気がしてたまらなかった。
(・・・・・・・・何があっても美波を失いたくない。どんな事があっても・・・・・・・・)
智は考えると、自分が以前にも増して美波に依存している事を感じた。
昔の智は、どちらかと言えば一匹狼で、敦のように友達としょっちゅう出かけたり、飲んだりするタイプではなく、単独行動が多かった。
言葉が足りないと言ってしまえば簡単だが、智としては、もっと深く自分の事を理解してくれる相手が欲しくて、恋愛関係が順風満帆だった事はなかった。どんな相手も、智を理解してくれているとは感じられず、すぐに終わりがやってきた。
敦が友達を紹介してくれた事もあったが、結局、美波に出会うまで、智自身、自分が誰かに依存して生きるなどと考えた事すらなかった。
考えてみれば、智には、敦より親しい友達もいない気がした。
(・・・・・・・・美波と敦・・・・・・・・)
智は自分の人間関係が、完全に美波を中心に構成されていることに苦笑した。
(・・・・・・・・俺、美波がいなくなったらどうするんだろう・・・・・・・・)
智は漠然と考えながら、頭を横に振った。
(・・・・・・・・そんな事、考えられないし。考えたくない。今度の週末、もう一度、美波とゆっくり話し合おう・・・・・・・・)
智は考えると、目を通す途中だった仕事の資料を手に取った。
(・・・・・・・・家に仕事を持ち帰るのは、独身の間だけ。結婚したら、家での時間は美波と過ごすんだから、仕事の持ち帰りはなしだな・・・・・・・・)
美波との結婚生活を想うと、智はとても幸せな気持ちになった。
(・・・・・・・・予定より遅れたって、ずれたって構わない。大切なのは、美波と幸せになる事・・・・・・・・)
智は心の中で思うと、仕事を続けた。
☆☆☆
桜の花びらが風に舞っていた。スカートを広げたように鮮やかな枝垂れ桜は、まぶしいほどにその花びらを広げていた。
「ティンク、待って。」
美波は言うと、突風に瞳を閉じた。
「美波は目が大きすぎんだよ。だから、すぐにごみが目に入るんだよ。」
絢子の声だけが、風の音と一緒に美波の耳に届いた。
「ティンク、ちょっと待ってったら。」
美波は言うと、慌てて絢子の後を追おうとした。
『急がなくっていいよ。』
突然、翔悟の声が聞こえた。
「翔悟・・・・・・。」
美波が言うと、翔悟はまだ目を閉じたままの美波の肩を優しく抱いてくれた。
「美波、こすっちゃ駄目だよ。」
翔悟は言うと、美波の手に目薬を握らせてくれた。
「ありがとう。」
美波は言うと、すばやく目薬をさした。
いつもはスーッとした、爽涼感があるのに、今日は何も感じなかった。
「絢子も、こっちに来て座ろう。」
翔悟の言葉に、絢子もすぐに戻ってきた。
「翔悟は、いっつも美波に優しいんだから。」
絢子が言うと、翔悟は絢子の手を掴んで引き寄せた。
「美波にだけじゃないさ。絢子にだって・・・・・・。」
見つめ合う翔悟と絢子の唇が、いまにも触れ合いそうで美波は顔を伏せた。
再び激しい風が吹き、美波は瞳をとじた。
☆☆☆
「美波、聞いてないだろう。」
絢子の声に、美波は驚いて目を開けた。
絢子の姿は、さっきより少し大人びて見えた。
「ティンク。ごめん。」
美波が言うと、絢子は美波の頬に手を伸ばした。
「翔悟、なんで帰っちゃったんだろう。」
絢子の言葉に、美波は自分が想い出の中を旅しているのだと感じた。
「翔悟は、きっと私たちが二人になっているから、困っちゃったんだよね。」
絢子は言うと、ため息をついた。
「翔悟になら、美波をあげても良かったのに。」
絢子の言葉に、美波は目をふせた。
「翔悟は、ティンクの方が好きだったのよ。だから、ティンクがそんな事ばっかり言うから帰っちゃったのよ。」
美波が言うと、絢子はもう一度ため息をついた。
「眠いね。このまま、昼寝しちゃおう・・・・・・。」
絢子は言うと、コンクリートの上に横になった。
「先生に見つかったら怒られるよ。」
そういう美波の手を絢子は引っぱって横にならせた。
「大丈夫、自習なんだから、先生来ないって。」
絢子は自信たっぷりに言うと、両目をとじた。
美波も暖かい日差しに、眠気が襲ってくるのを感じた。
☆☆☆