遠い昔からの物語

白いランニングシャツとズボンに着替えた神谷が、どかどかと入ってきた。

「……四人で、花札やろうや。『こいこい』でも『株』でも、どっちゃでもええで」

手の中の花札をヒラヒラさせながら云った神谷の後ろには、奴の彼女が両腕を組んで立っていた。

廣子は背を向け、慌ててブラウスのボタンを止めていた。突然のことで動揺しているのだろう。
肩が震えていた。

「貴様、他人(ひと)の部屋に声も掛けんといきなり入ってくるな。いつも云うとるだろうが」

おれが怒りのあまり吐き捨てるように云うと、神谷がおれの腕を取って脇へ引っ張って行き、

「頼むさかい、おれとあいつを二人っきりにせんといてくれ。なんや知らんけど、おれが朝飯のとき、おまえのエンゲの乳ばっか見とったって難癖つけて、えらい怒っとうねん」

片手で拝みながら、声を殺して云った。

そんなくだらない理由のために、これからだっていうところで邪魔をされたおれは心底腹が立ち、奴に取られた腕を振り払って睨みつけた。

多分、敵機を目の前にしてもこんなふうには睨みつけられないだろう。

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