溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
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帰宅ラッシュと重なってしまい、満員電車に押し込まれるように乗り込む。
ぎゅうぎゅうと老若男女がひしめき合う車内。田舎とは雲泥の差であるこの光景には、もう何度も遭遇しているがいまだ慣れない。
それに向かい合うようにして立つ九条さんとも時折体が触れ合うものだから、心身共にスペースがない。
そういえば結局、私の失言にもなにも答えてくれなかった。ううん、はぐらかされたような気もする。
もしかして九条さん、いまだに朱音さんに未練があるんじゃ……。だからなにも答えられなかった?
……って、私。さっきからどうしてそんなことばかり考えているんだろう。
「西沢、」
突然低い声で話しかけられたものだから、ひっ!と変な声が上がる。そんな不審な私を、九条さんが眉をひそめ見下ろす。