溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
あぁなにか話したい。でもずいぶんまともに話していないし、目も合わせていない。だからなんて切り出していいかわからない。今までこんなにも落ち着かなかったことがあっただろうか。
「朱音のとこ行ってきたんだろ? どうだった?」
あれこれ考えていると、九条さんから声を掛けてきた。心の準備ができていなくて、ひっ!と肩がすくむ。そんな私に、冷たい視線が向けられる。
「……つ、使いやすそうだって言ってくれました。デモで練習した時もちゃんとできていました」
「ならよかった」
そう短く言うと、スマホを取り出し目を落とす九条さん。会話はわずか数秒で終了してしまい思わず下唇を噛む。他にネタはないだろうか。共通の好きなものとか。
ん? そもそも九条さんは何が好きなのだろう。趣味とかあるのかな。よくよく考えると九条さんのこと何も知らない。休日は何をしているのかとか、嗜好品だとか。