溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
中に入ると、こっちを気に掛けていたであろうおばちゃんが慌ててテーブルを拭き始め、「おかえり」と声を掛ける。
それを証拠に、数席あるテーブルには空いたお皿が残されたまま。もしかすると今の今まで聞き耳を立てていたのかもしれない。そんなどっからどう見ても白々しい態度に思わずクスッと笑い声がこぼれた。
「あー忙しい忙しい。夜の準備もしなきゃ〜」
しかもなぜか棒読みでそう言って奥へと入っていく。九条さんと二人で思わず顔を見合わせ笑った。
「あの、そういえばお見合いがどうとか言ってませんでしたっけ?」
すっかり冷えてしまったサンマに手をつけながら、隣に座る九条さんに問いかける。
「福田さんに持ちかけられたんだろ? 息子と見合いしないかって」
ん? そんなことがあったっけ? 全くと言って身に覚えがないんだけど。