溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「先週の話だぞ? 覚えてないのか?」
「はい、全く」
そう答えた私を見据え、眉根を寄せる九条さん。彼の話によると、最近私に元気がないことをおばちゃんは心配していたらしく、パートナーでもいたら心強いのにねぇとこぼしていたとか。
そこで自分の息子とお見合いさせるのはどうだろうと持ちかけてきたらしい。上司の目から見てどうなのかとか、意見まで求められたとか。そこまで聞いても私には全く見に覚えがなかった。
「すみません。私やっぱりなにも聞いてないかと。そもそもおばちゃんが息子さんの話をすることもあまりなかったですし」
おすおずと視線を上げ言うと、九条さんが顔を歪め考え込んでいた。そしてしばらくして彼の中でなにか繋がったのか、
「あのババァ」
と恨めしそうに呟いていた。