溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

きっとこの決断にはかなりの葛藤があったに違いない。現に少し前まであんなに美に関して気を配っていたわけだし。それなのに男だとわかった途端、ぶっ倒れるなんてあまりにも失礼じゃなかろうか。

「ユリさん、ごめんなさい……私」

膝の上で握りしめた手を見つめながら謝ると、ユリさんが、ん? と不思議そうに首を傾げ見つめる。

「どうしてあんたが謝るの? 」
「だって……」
「自分がこうしたかったからしただけよ。あんたが驚くことも引くことも覚悟の上だったし」

いつものように綺麗に笑って私の頭を優しく撫でる。見かけは変わっても、中身はユリさんのまま。優しくて私の話を真剣に聞いてくれる。

「ユリさんのことは好きです。でも私はやっぱり九条さんが……」
「わかってる。奪い取ろうなんて考えてない。ただずっと疑問に感じてたの。自分自身に。女の子の格好をするのは好きだけど、いいなぁ、って思う子はいつも女の子だし、結局恋愛対象は誰なんだろうって」

目を伏せそう話すユリさん。思い返せば以前、自分で戸惑っているって言っていたっけ。そういうことだったんだ。そんな時から私のこと好きでいてくれたんだ。

「でも今回でよくわかった。あんたが悩んでたら抱きしめたくなったし、私が幸せにしてあげる!って、何度も手を出しそうになったもの。やっぱり心は男みたい。そのことに気づけてよかった。あんたのお陰よ、ありがとうね」
「そんな、私はなにも……!」
「幸い工事もしてないから、もし九条さんと別れたら、いつでも抱いてあげるからね?」

と、綺麗なウインクが飛んで来る。工事って? ん?どいうこと?

「なに? 信じられない? それなら触ってみなさいよ」

え? と、キョトンとしていると、とある場所に手を持っていかれ、直後に生ぬるい感触が走った。

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